アイドルとボディガード


彼に誘われるままパーティ会場に戻る。
彼がドリンクを取りに行っている間に深いため息。

せっかくこの日のためにドレス買ったのに。
あたしがどれだけ桐生に会えるのを楽しみにしてたと思ってるの。

泣きそう。
視界が揺らぐ。

そんな中目の前に差し出されたのはブルーのグラデーションが綺麗なカクテル。


「大丈夫?」

「は、はい」


はっとして、三谷さんを見上げる。
カクテルを見て眉をひそめた私に、察しがいい三谷さんは私に聞かれる前に言った。


「大丈夫、ちゃんとノンアルコールカクテルだから」

「ありがとうございます」


そう言って口をつけると柑橘系のジュースだった。


「あ、おいしい」


率直に言うと、三谷さんはにっこり笑った。


「俺の友達がさ、君のめっちゃファンでさ」
「一度、話してみたいと思ってたんだ」
「あ、ジュース何か違うの持ってこようか」


三谷さんはずっと1人で話していた。

私は笑顔で適当に相槌を打った。
時折、そうなんですかなんて挟めたかもしれない。


もう分かんない。
頭がクラクラする。


微炭酸の泡がグラスの中で揺らいでいる。


私はそれをぐいっと飲み干した。




もう全部、全部忘れちゃいたい。

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