アイドルとボディガード



「さっきからそんな怖い顔しちゃって。そんなにあの子が大事?」

「早く教えろ」


そう急かすと不意に須藤が俺の前に立った。


「じゃ、キスして」


ワイングラスを片手にもう片方の手を腰にあて、悪戯に俺を見上げる。


「キスしてくれたら教えてあげる」


俺は乱暴に頭を掴むと荒っぽく口づけた。

余裕かましていた奴が、慌てて片方の手で俺の胸元を押して抵抗する。

至近距離で口を離してやると、奴の顔は真っ赤になっていた。


「おら口開けろよ。てめぇがしてぇって言ったんだろ」


更にそう言うと、奴はでかい目に大粒の涙をためながら、勢いよく俺の頬をぶった。

バチンっ


「みんな、みんな小泉千遥がそんなに大事……っ?」


彼女はそう言うと、その場に泣き崩れた。


「今までどんなにねだったって、一緒にご飯さえ行ってくれなかったのに……っ」


泣きわめく須藤。


「あの子の為なら、好きでもない女とでもキスできるんだっ」

「あぁ、なんだってやってやるよ」


そう言って冷たく須藤を見下ろす。




その後容赦なくことを聞き出した。

どうやら、三谷と記者とグルになってスクープを撮るつもりだったと。

三谷は次の主演映画の広報に、記者としてはもちろんスクープ目当てで。




なんとか阻止しようと部屋へ急ぐ。

別に、俺はもうあいつのボディガードじゃないし。
俺があいつを助ける義理なんてない。

でも、あいつの夢は守ってやりたい。

あれだけ悩んで苦しんで、やっと今掴み始めたところなのだ。

ここで誰かに邪魔なんてさせない。





部屋の近くまで来ると、部屋の前で電話するさっきの中年男の姿があった。

俺はそいつの首にぶら下げた一眼レフをぶんどった。
突然のことに驚いた男が慌てて取り返そうと手を伸ばしてくる。


「いきなり何するんだ!」

「写真は撮ったのか?」


そう聞きながら、カメラの撮った履歴を見ていく。
千遥と思わしき画像はない。


「お前はさっきの……っ」

「写真は撮ったのかって聞いてんだよ」

「まだ撮ってねぇよ。お前に関係ねぇだろ!」


興奮して声を荒げる男の腹に軽く膝を入れる。
見た目に反せず軟弱な奴は、うぅっと唸りながらその場に腹を抱えて蹲った。


「……お前、俺を敵に回してあとでどうなるか分かってんだろうな」


全く脅しにもならないことをほざく奴に呆れてつい笑ってしまう。
俺は奴の顔の前にしゃがみ込むと、奴の襟ぐらを掴んで言った。


「お前こそ今度千遥に何かしたら、こんなんじゃ済まさねぇよ?」


ぶんどったカメラを床に叩きつけ踏みつけた。
レンズがパリンと割れる。

奴の顔がどんどん青ざめていった。


「二度と千遥に近づくな」







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