アイドルとボディガード
その後泣く千遥をなだめ家へ送った。
それから会ってはいないが、連絡だけは必ず来ていた。
まるで何事もなかったかのような、いつもと変わらないやり取りだった。
川口家の門から出て車へ向かう途中、見覚えのある男に声をかけれた。
顔を見てぞっとする。
「桐生さん、久しぶりです」
ニヤっといやらしく笑うそいつは、以前千遥のねつ造写真を撮ってスクープにしようとしていた記者だった。
ここを割り出されているということは、もう全て俺の素性も暴かれているのだろう。
動揺を隠すようにポーカーフェイスを装う。
「……何の用だ」
「そっけないなー、せっかくプレゼント持ってきたのに」
そう言って、写真を渡される。
それはとある店から、千遥と俺が出てきたところを撮られたものだった。
胸が鷲掴みにされるような衝撃が走る。
「これ、来月号に載せようと思ってるんだ。しっかし、ヤクザのボディガードなんかやってる君とアイドルの熱愛発覚なんて千遥ちゃん、終わりだね」
右手の拳がきりきりと痛む。
……ダメだ、殴ったところでなんの解決にもならないし。
ただ状況を悪化させるだけだ。
しかし、黙って載せればいいものを何故わざわざ俺に持ってきた?
ただ俺のショックを受ける顔でも見たかったか、単なる復讐か?
それともまだ希望はあるのか……?
あまり期待できないだろうが、今はそれに縋るしかない。
「わざわざなんで俺に見せにきたんだ?」
「さすが頭の回転が早いねー。話が早いよ」
「さっさと話せ」
「いやー、君がいるさ川口組にもっと大きなスクープがあるんじゃないかと思ってさ。こんなアイドルのスクープ揉み消せちゃう程の!」
奴は意気揚々と楽しげに話す。
「なぁ取引しないか?君が川口組からネタを持ってこれたら、この記事もうちょっとオブラートに包んだものにしてやるよ。君の素性も隠してさ」
「もう、載せるのは決まってるんだな」
「よっぽどいいもの持ってこれたら考えてやってもいいけどさ」