アイドルとボディガード


奴は、さぞかし俺を困らせたいらしい。
そしてその様子を高見で見て楽しんでる。

あぁ、あの時もう少し殴っておけば良かった。



「で、どうする桐生クン、二択だよ。彼女を切り捨てるか?それとも自分の身の危険まで冒して彼女を助けるか?」

「……千遥は守る」

「そう。あ、くれぐれも殺されたりしないでよ?なんだか僕のせいみたいで後味悪いじゃない?」


そんなの答えは決まってた。
ただ、それはこいつの言う通り自分の命も懸けなくてはいけない。

決して大げさに考えてはいない。

少しでもしくじれば、裏切り行為とみなされ俺の命なんて簡単に消されてしまう。

こういう選択を迫られたのは一度や二度じゃない。

だけど、ここまで恐れを感じるのは千遥が問題に絡んでいるだろうか。






川口組から都合良くネタなんて盗んでこれるものか。
そもそも、俺は全く組自体とは関与していない。

こそこそ嗅ぎ回れば怪しまれて捕まるだけだ。


どうする?
何かいいアイディアは……。

須藤リサと舎弟の川上との関係でもリークしようか。
一瞬そんな考えが脳裏をよぎる。

川上は面白がるだろう。
ただ、須藤リサは終わりだろうな……。


一度は千遥を陥れようとした奴だ、何を躊躇う必要がある。




どうしようか。
組にいる時は四六時中、爺さんと一緒にいる。

隙を狙って探っていくしかない。
それは、まるで命を削るような作業だった。


標的は決まっていた。
屋敷の薄暗い地下にある、とある金庫。

その金庫の鍵は、総代の一番の側近の秘書が肌身離さず持っていた。
厳重に取しまわれているだけあって怪しい。

その鍵が秘書から離れた隙を狙って奪う。

でかい屋敷に、爺さんの直属の部下も数人一緒に住んでいた。

その秘書もその中の一人だ。

秘書が風呂に入った隙を狙って、その服から鍵を取る。



自分でもリスクが大きすぎるバカげた計画だと思う。

だけど今はそれ位しか手立てがない。




秘書の動向を探ろうと、それからバレないよう慎重に彼の動きを目で追うようになった。



「桐生、そんなに秘書が気になるか」

「い、いや」

バレた……。

この数十年、死線を生き抜いてきた爺さんだ。
この人の傍らでこんな無謀なことしてんだから、そらバレるだろ。
焦ったせいか、迂闊過ぎた。


「なんだ、お前うちの秘書になりたいのか?」

「え?えぇまぁ」

分かってるんだろう。
なぜ、問い詰めない。

少しでも爺さんの前で怪しい動きを見せたら絶対に外させるはずだ。

何か意図があって……。

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