アイドルとボディガード
ヤクザなんて自分とは、生涯関わり合いのないものだと思っていたのに。
須藤リサに桐生の居場所を教えてもらい、すぐさま向かった。
もう無我夢中だった。
門の前まで来て少し冷静になる。
と同時に今まで感じたことのないような恐怖を感じた。
自分が住んでいた一般社会とは一線を画し、違う理の中で生活している人達だ。
今までの自分の常識が通じない世界が目の前にあって、そこに私はこれから行くのだ。
震える人差し指でインターホンを押す。
「小泉千遥といいます。桐生京介の知り合いの者なんですが会わせてもらえないでしょうか?」
門前払いされるかと思ったら門はすんなり開いて、中から大きな男が出てきた。
その人は自分のことを川上と名乗った。
桐生の元へ連れてって欲しいと頼むも、その前に私に会いたい人がいると言われた。
まずは、その人の元へと案内された。
広い和室にお爺さんが1人ぽつんと座布団の上に座っていた。
目の前のテーブルには湯呑が二つ。
お爺さんの分ときっと私の分。
すでに私が来ることを知らされていたかのように、用意されていた。
「よく1人で来たね。怖くなかったのかい?」
「はい、こ、怖かったです」
私の中のヤクザというイメージはどれも血生臭いものばかりで。
……でも、きっとそのイメージは間違っていなくて。
ここに来てから、ずっと心休まらない。
「そうだね、決して君みたいな御嬢さんが来るところじゃない。だけど1人で来たからにはそれなりの理由があるんだろう」
「はい」
「桐生だね」
「……はい、桐生を助けに来ました」
「そうか。残念だけどそれは難しいかな」
「き、桐生はどこですか?」
「もうあいつはだめだ。うちの内部情報を売ろうとしたんだ。それ相応の処罰は受けてもらう」
「しょ、処罰というのはっ!」
「……聞きたいのかい?」
私は、お爺さんの前で畳の上に額がつきそうな程深く頭を下げる。
「どうかお願いします、桐生を助けて下さい。全部私のせいなんです。私が桐生の変わりに罰を受けます」
「そうかじゃあ、嬢ちゃんには何してもらおうかな。手始めに、ここで裸踊りでもしてもらおうか?」
「よ、喜んでさせて頂きます」
「うーん、やっぱり小娘の裸なんて見てもつまらん。君の小指一本もらおうか?小指がなくなったらマイクが持ちづらくなるね。その前にアイドルなんてやってられなくなるか」
……小指一本。
自分の指を見る。
私は息を飲むと、両手をバンとテーブルの上に差し出した。
「どうぞ……っ」
桐生の命がかかってるんだ。
私の小指一本で助かるのなら、どんな痛みにでも耐えてみせる。
そしてこの選択を私は絶対に後悔しない。
目をぎゅっとつむり、覚悟した。