アイドルとボディガード
しかし、お爺さんはその手をどうこうする訳でもなく、しばらく嫌な沈黙が流れた。
私はその間も手をひかずに頭を下げ続ける。
そしてついにお爺さんの笑いで沈黙は破られた。
「ははは、大したお譲ちゃんだ。本当に桐生のことが好きみたいだな」
「へ……?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
「顔をあげな、ごめんな脅かして。ちょっと試させてもらったんだ」
そう言って笑うお爺さん。
その笑顔に心底ほっとして、今になって緊張の糸が切れたのか目から涙が溢れてきた。
「桐生、出ておいで」
お爺さんが襖の向こうへ声をかけると、襖が開かれた。
そこには桐生の姿があった。
私のぐちゃぐちゃになった顔を見ると、桐生は呆れたように笑う。
どこもなんともないみたいで、嬉し涙が止まらない。
「約束通りあの記事はもみ消してやろう」
「ありがとうございます」
「……ただし、お前は破門だ」
「はい」
「元より組の者でもないお前に使う言葉ではないが、私はそれ程信用していた」
どこか悲しそうに言うお爺さんに、桐生もどことなく寂しそうな表情。
「その子を連れて出て行きなさい。そして、ちゃんと幸せにしてやるんだよ」
「はい、色々お世話になりました。このご恩は一生忘れません」
お爺さんの前で正座し、深々と頭を下げる桐生。
「さっさと忘れちまえ。その子を守りたいなら二度とうちの組に関わんじゃねぇぞ」
そう言ってまた笑うお爺さん。
あとから桐生に詳細を聞くと、
内部情報を探っていたのがバレて捕まったが、
匿名で電話してきた奴の方が怪しいと調べたところ、
私と桐生の熱愛写真が撮られて桐生がゆすられていることが判明し
川口組側で記事をもみ消してやるという流れになったそうなのだが、
そもそも記事を掲載したところで、別に桐生側としては痛くもかゆくもない訳で
私に助ける価値があるのか、私が一体どういう人間なのか、知りたいということで、
今回須藤リサにまで協力させて私をここにおびきよせたとのこと。
で、結果は晴れて、助けてやるだけの価値はあるとみなされたのだった。