アイドルとボディガード
桐生が車をとりに行っている間、川口組の中で待たせてもらった。
車を門前まで寄せてもらい、すぐ乗り込む。
「お前よくここまで乗り込んできたな」
「うん、でもまさか小指一本なんていう映画の世界の話をされるとは思わなかった」
「あぁ、すんなり裸踊りなんて受け入れられたもんだから、どこまでやれる覚悟があるのか聞いてみたかったんじゃないか。さすがに、これはあんまりだと思って出て行きそうになったけど、まさかあっさり受け入れるとは思わなかった」
「だって、桐生が本当に殺されちゃうと思って」
「怖い思いさせて本当にごめんな」
「ううん、小指なんかより、桐生を失うことの方が本当に怖かった……。本当に無事で良かった」
しばらく桐生は何か考えるように黙り込む。
なんか嫌な予感がする。
こんなことがあっては、またもう会わないとか言い出しそうだ。
私もアイドルとしての自覚が足りなかった、そんな私のわがままが発端だった訳で。
反省はしてる、けど、会えないっていうのはやっぱりやだ。
だからといって芸能界を辞めたい訳でもない。
どうしたらいいの……?
「……今日あいてるか?」
「……うん」
しばらくしてそう聞かれ、車は二人きりになれるホテルへ向かった。
ホテルに着くと、ソファーに座った。
桐生もまたその向かいに座る。
重苦しい空気がただよう。
「千遥、」
「やだ」
「は?」
何を言い出されるかもう分かっていて、思わず拒絶してしまう。
「まだなんも言ってねぇんだけど」
「だから、やだってば」
どうせ、もうこれで終わりだとか、もう会えないとかそんな話でしょ?
桐生は、はぁ、とため息をついた。
そして、聞く耳を持たない私に構わず桐生は話し始めた。
「千遥、また今回みたいなことが起きたら、俺は今度こそ千遥を守りきれない」
「お前の夢を俺が潰してしまうことが怖いんだよ」
「だから、お前とは距離を置こうと思う」
やっぱり、そんな話じゃない。
いやだ、いやだ、とここで泣こうか。
またそんなことをしては子どもっぽいと思われるだろうか。
だけど、私はまだ10代だ。
特権だとばかりに縋りついてやろうか。
だけど、そんなことをしては桐生を困らせるだけ。
なるべく、理性的に、と感情的になる心を落ち着かせ静かに言った。
「いやだって言ったら……?」
頬につーっと涙が伝う。
「お前が何と言おうと、もう決めたことだ」
「それ、どういう意味……?」
「明日、日本を発つ」
ずっと、お前を川口組で待っている間考えていたんだ、と続けるが。
もはや、そんなことはどうでもいい。
「は……?」
唐突過ぎて頭が混乱する。