無理が通って道理も通す。
「は?」

思わずそう聞いてしまった。

開いた口が塞がらないとは、まさにこのことである。

そんなオレに構わず、母さんは言葉を続ける。

「だからさ、女性として面接受ければなんとかなるんじゃない?とも君、女の子みたいな顔だし」

ここで名乗っておこう。

おれの名前は河野智明。

ちなみに名字は「かわの」と呼ぶ。

「こうの」では無いのでご注意願いたい。

さて話しを元に戻そう。

何を言ってるんだ?この母親は?

オトコがダメなら女性?

そんなことできるわけ………

と、ノーマルな思考回路ならそう判断していただろう。

だが、あいにく、この時のオレはノーマルではなかった。

就職への焦りから思考回路がショートしていた。

むしろ、「そっか!その手があったか!母さん、ナイスアイディア☆」とさえ、思ってしまっていた。

今思えば、ここが人生の分岐点だったのだろう。

母さんの言葉を真に受けたオレは適当な(適当とかいって申し訳ないが、就職できればどこでもよかったので勘弁願いたい)会社に面接の電話をいれた。

もちろん、女声で会話をした。

元々声変わりがない影響で声は高いほうで、声色を変えれば女と勘違いされるほどだった。

そして面接の日程を設定したあと、自分に似合いそうなウィッグを購入し(この時、ウィッグを手にレジまでいったオレをその場の客とレジの店員さんが奇異な目で見ていたのは言うまでもない)女性用のスーツを買い、化粧道具を買い、より女性らしく見えるようムダ毛を処理し、面接に望んだ。
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