涙ドロップス 〜切なさを波に乗せて〜
でも放課後、夕凪は教室にいて、
上條君に帰れと言われて出て行く時、私の名前を呼んでくれた。
『潮音……』
ズタズタの傷口から、愛しさが溢れそうだった。
上條君の腕の中で、この腕が夕凪ならいいのにと思ってしまった。
あの時、分かった。
上條君は「忘れさせる」と言ったけど、
それは無理だということが。
どんなに優しくされても、真っすぐに気持ちをぶつけてくれても、
夕凪を好きな気持ちは、変えられない……
付き合えば、私も上條君もきっと苦しくなる。
返事をする寸前にそれに気付いて、
彼の告白を断った。
私の話しを聞いて、夕凪はまた泣いた。
「良かった……」
そう本音を漏らし、片手で目元を覆っている。
夕凪って……
結構子供っぽいところがあるのだと、初めて気付いた。
夕凪の保護者は一応同居の叔父さんになっているけど、学校行事に来たことはない。
保護者が書くべきプリントも、夕凪が自分で書いていた。
炊事も洗濯も小さな頃から自立して、私よりずっと大人に見えていた。
サーフィン姿もたくましくて、年上みたい。
でも今こうして、目の前で泣く夕凪は、小さな子供みたいに見える。
不思議でアンバランスな男の子。
そこも私には、魅力的に感じた。