涙ドロップス 〜切なさを波に乗せて〜
教室が静まり返る。
こんな彼を見るのは初めてで、
怒りを表す姿に、皆驚いていた。
机越しに、上條君が夕凪のネクタイを掴んだ。
強く引っ張るから、夕凪は前傾になり、机に右腕をついた。
上條君がニヤリと笑う。
「謝ってくれても、嬉しくないね。
悪いと思うなら、一発殴らせろ」
上條君が、拳を宙で構える。
「やめっ……」
慌てて止めようとする私を、夕凪が腕を伸ばして制した。
夕凪は上條君から視線を外さない。
「殴ってくれ。思いっ切り」
静かな声で、そう頼んだ。
夕凪の顔目掛け、上條君の拳が唸りを上げる。
教室のあちこちで、女子の短い悲鳴が響いた。
私は体の前に伸ばされた、夕凪の左腕にしがみつく。
まるで自分が殴られる気持ちがした。
ギュッと固く目をつむった。