涙ドロップス 〜切なさを波に乗せて〜
 


2秒経ち、3秒経ち……
そろそろと目を開けた。


上條君の拳は、夕凪の眉間スレスレで止まっていた。



固く握った拳が、ゆっくりと開いていく。


その指は、夕凪の額を一発弾いただけだった。



夕凪は面食らっている。



「殴ってくれないのか?」



上條君はストンと、椅子に腰を下ろした。


頬杖をつき、怒りのない目で夕凪を見上げる。



「貝原を殴れば、潮音ちゃんが悲しむ。

俺、お前と違って、女を泣かすの嫌いなの。

彼女を泣かせるくらいなら、お前を許す方を選ぶ」




私はまだハラハラしているけど、
夕凪の口元は綻んでいた。


上條君も、少しだけ笑っていた。



夕凪が言う。



「お前って、いい奴だな」



上條君が答える。



「どうだろう?

貝原がいつまでも拗ねていればいいと、本気で思ったけどね」



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