涙ドロップス 〜切なさを波に乗せて〜
 


顔を覗き込むと、夕凪の視線が泳いだ。


誰よりも夕凪が嬉しいはずなのに、なぜ戸惑っているのか。


私も両親も、夕凪の態度を不思議に思っていた。



夕凪は食べかけの箸を置いて立ち上がる。



「ごちそうさま。
部屋、戻ってる」


そう言って、右手に雑誌と脱いだ義足を持ち、

左手に松葉杖をついて、リビングを出て行った。




「夕凪、嬉しくないのかな……」


ポツリ呟いた私の問いに、誰も返答してくれない。


夕凪の心が見えず、父も母も首を傾げていた。





夕食を終えて、夕凪の部屋の前に立つ。


夕凪の部屋は、私の隣。


そのドアにはこんな張り紙がされていた。


『18歳になるまで、キスより先は禁止。by父』



うちで一緒に暮らそうと言い出したのは父だけど、

年頃の娘を持つと、いらない心配もするみたい。



夕凪はこの恥ずかしい紙をはがさない。

禁止事項も守ってくれる。


夜遅くに二人切りにならないよう、気をつけている雰囲気も感じていた。



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