涙ドロップス 〜切なさを波に乗せて〜
嬉しそうな顔の夕凪が私の左手を持ち上げ、薬指にそっと指輪を通した。
観客席がワッと歓声に湧いた。
指笛が鳴らされ、
「おめでとう!」と祝福の言葉を、あちこちから掛けられた。
お祝いしてくれる声も嬉しくて、
泣いてばかりの私を夕凪が笑う。
「潮音は昔から、泣き虫だよな」
「うっ……」
それは否定できなけど、私を泣かせるのはいつも夕凪なのに。
涙を拭う私の手は、夕凪に掴まれた。
「泣き顔も笑顔も、潮音の全てを愛してる」
そんな言葉をくれた夕凪は、涙をすくうように私の頬にキスして、
瞼にキスして、
唇にもキスをくれた。
夕凪のキスは、いつもほのかにサイダー味。
それは駄菓子の富倉に置いてあった“海色ドロップ”を思い出すせいかも知れない。
子供の頃からの二人のお気に入り、大きなブルーの飴玉は、
もう富倉に置いていない。
それは残念だけど、私と夕凪の記憶には、今もハッキリあの味と香りが残っている。
海色ドロップと、
ポロポロこぼれる涙のしずく。
まだ濡れている夕凪の髪からは、
海水のしずくがポタリポタリと落ちてくる。
婚約指輪のサファイアのように、
キラキラ輝く青いしずくたち。
その一粒一粒に、私達の恋物語が刻まれている気がした。
【完】