[中]余命24時間
抱きしめられる直前。翔の表情が、歪んだように見えた。
階段の奥からは、小さな笑い声が聞こえていた。
きっと、お母さんがテレビを見ているのだろう。
普段はお笑い番組なんて見ない筈なのに。
「美音…、俺…」
しだいに小さくなっていく、翔の声。
重なり合った心臓。
どうしてだろう。
あたしの心臓だけ、鼓動が早い。
そして…
あたしの体を囲んでいる翔の腕が…
ふるえてる──…。
「俺…怖い…」
それは。最初で最後の、翔の本音。
翔はあたしに抱きついたまま、話を続ける。
「怖いんだ…俺…。
美音がもうすぐ俺の前からいなくなるだなんて、信じられなくて…」
弱々しくなる翔の声からは、あの頃のような元気さは見られない。
「だって美音…こんなにあったかいのに…。
心臓だって、ちゃんと動いてるのに…。
こんな痣のせいで美音が死ぬなんて、俺…。信じたくないんだよ…」
肩の上に、温かい滴が落ちた。
もしかして
翔、泣いてるの──…?