[中]余命24時間


不思議と、"怖い"とは思わなかった。涙さえも出なかった。


ただ、これでみんなが幸せになれるんだ…と思ったら、

波の音さえも心地よく感じた。



「…翔…」



こんな時にでも、思い出すのは翔のこと。


初めて逢ったときは、何も感じなかった。

クラスの女子に囲まれている翔を、あたしは目で追いかけることさえもしなかった。



だけど、翔の意外な一面を知って、

優しい声に惹かれて。


いつの間にか、あたしは翔でいっぱいになってた。



一歩一歩近づく度に、蒼い世界が鮮明になる。


じりじりという音が、蒼い世界への入り口になる。




───ふと、思い出した。最後の夜のこと。



『秋桜の花言葉って…知ってる?』



【乙女の純潔】



純粋に、潔いまま。


あたしは永遠に、翔のことを想い続ける。




『美音が、俺のことずっと好きでいてくれる。それ以上に嬉しいことなんてない』




翔。

翔の言葉を、あたしは一生忘れない。



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