虫の本
 映画で怪獣といえば思い当たる物はいくつもあるけれど、この場合はアレだろう。
 年々と増加し続ける二酸化炭素を一気に酸素に変換していく超巨大植物。
 地球に害為す人間への防衛機能としてニューヨークに突如現れて、過度に酸素をバラ撒き始めてしまう。
 酸素も濃度が上がりすぎると、普通の生物には有害であるらしい。
 皇樹ユグドラシルと名付けられたそれを焼き払おうにも、住み着いた高酸素大気に適応した戦車やトラックよりも大きな大型昆虫が邪魔をして、なかなか上手くいかない。
 ミサイルや爆弾の熱にすらびくともしない皇樹を焼く為に、色んな分野の専門家が力を合わせて皇樹の中心である幹を目指す──そんな話だっけ。
 有名監督と世界的な人気を誇る俳優陣を起用した超大作で、合衆国で有名な賞を取ったっていう作品の割には、オチはいたって普通の大団円。
 見た目ばかり派手で中身が薄く、個人的には少し残念な印象だった。
 もっと教訓的なテーマを前面に出して話を組み立てればもっと面白い話になったのに、と思う。
 確か、和訳された作品名は“皇樹の侵林”だったか。
 喫茶店に入る前に、由加と見て来たばかりの作品である。
 となると、由加が想像したのは、きっと人を襲う皇樹本体、あるいは皇樹に住まう超巨大昆虫だろう。
 由加の奴、結構怖がってたようにも見えたけど、割と楽しんで貰えていたようだ。
 誘った甲斐があったってもんである。
「それでは駄目なのです。もっとこう、限定的な対象を撃退できるような──いけない、下がって!」
「ひえええっ!?」
 意味不明な話もそこそこに、突然由加が突き飛ばされた。
 三メートル程すっ飛んで、そのまま彼女は俺に激突する。
 もちろん、押したのはあの子だ。
「痛ってぇ──おい、いきなり何すんだよ!」
「私から離れてくださいっ!」
 抗議の声を上げる俺に、少女の怒声がぶつけられる。
 そのまま彼女は空を見上げ──
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