お隣さん。








「安藤さん、こんばんは」

「あれ、本田さん。どうしました?」

「これ……その、もらって下さい」



4月末。

安藤さんの仕事が終わり、5時くらい。

帰って来るのを待っていた俺は、手にしていたものを彼女へと向けた。



「俺の気持ちです」

「本当? 嬉しいっ!」



渡した気持ち──もとい、実家から送られてきたおすそ分けのキャベツは、彼女のわー! という歓喜の声を受け止めた。

葉の緑がひときわ輝くよう。



「うちは田舎やのに、なかなか送ってくれんから羨ましいです」



そう言ってから、安藤さんはワンテンポ遅れてあっと声を上げる。



「また喋りが。
なんだか本田さんと話してると気が緩んじゃうみたいです」



ふふ、と笑った彼女。

天然癒し系悪女といったところか?

恐ろしい。



それじゃあ……と挨拶を交わし、部屋に戻る。










その後口にした自分で作った野菜炒め。

安藤さんに渡したキャベツと同じ種類のものを使ったが、どうしてかまた失敗していたらしい。

それは顔をしかめるほど不味かった。






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