お隣さん。
*
「安藤さん、こんばんは」
「あれ、本田さん。どうしました?」
「これ……その、もらって下さい」
4月末。
安藤さんの仕事が終わり、5時くらい。
帰って来るのを待っていた俺は、手にしていたものを彼女へと向けた。
「俺の気持ちです」
「本当? 嬉しいっ!」
渡した気持ち──もとい、実家から送られてきたおすそ分けのキャベツは、彼女のわー! という歓喜の声を受け止めた。
葉の緑がひときわ輝くよう。
「うちは田舎やのに、なかなか送ってくれんから羨ましいです」
そう言ってから、安藤さんはワンテンポ遅れてあっと声を上げる。
「また喋りが。
なんだか本田さんと話してると気が緩んじゃうみたいです」
ふふ、と笑った彼女。
天然癒し系悪女といったところか?
恐ろしい。
それじゃあ……と挨拶を交わし、部屋に戻る。
その後口にした自分で作った野菜炒め。
安藤さんに渡したキャベツと同じ種類のものを使ったが、どうしてかまた失敗していたらしい。
それは顔をしかめるほど不味かった。