お隣さん。
次の日、いつもより遅く帰ると、
「……どうかしましたか?」
301号室じゃなくて、302号室の前。
俺の部屋の扉のところに安藤さんがいた。
少しもたれかかっていたのに、俺の姿を目にして普通に立つ。
こんばんは、と定番の挨拶に笑顔を添えられた。
「昨日はキャベツありがとうございました。やっぱりこっちで買うのと違って甘くて」
「それはよかった」
俺は失敗して甘いどころじゃなかったけど。
「それで、たくさん作ってしまったので、よかったらもらって下さい」
はい、と差し出されたタッパー。
「あ、どうも」と言って受け取り、ちらりと見えた中身は……、
「回鍋肉(ホイコーロー)なんです。
お口に合えばいいんですが」
「すごい、久しぶりに食べます」
「そうでしたか」
「ちょうど今から晩飯なんでありがたいです」
いただきます、と声をかけて、部屋の中に入ってしまう。
タイマー設定のおかげで炊けているご飯。
おかずを作らずに済んで幸運だ。
部屋着に着替えて、手を合わせて。
そうして俺は、安藤さんの回鍋肉を口にした。