お隣さん。
「ありがとうございます。
でも浅漬けの素に漬けただけなんですよ」
くすくすと笑う姿はあまり見たことのない対応。
そう、だよな。うん。
彼女は俺より年上で、ずっと大人なんだ。
ほわほわとしているだけじゃ、ない。
「あ、ごめんなさい。
待ち合わせしていた相手が来たみたい」
「はいはーい。お隣さん、またねー」
ひらり、手を振って駆けて行く彼女。
向かった先は……、
「え。紘、あれってもしかして」
「ああ、彼氏だよ」
安藤さんは、彼氏がいる。
そんなこと……知っていたのにな。
嬉しそうに声をかけて、指を絡める特別な繋ぎ方。
見ているだけで、甘い雰囲気に酔ってしまいそう。
「彼氏持ちか。惜しいっ。
お隣さんいい人なのになー」
「そうだな」
「……ふーん」
「いいから。行くぞ。
飯食って帰るんだろ」
やけに楽しそうな智也を連れて、俺は安藤さんとは反対方向に足を向けた。