お隣さん。
いつかのようにベッドに横になってうたた寝していると、隣の部屋から話し声が聞こえ始めた。
もしもし、と聞こえたから電話でもしているんだろう。
「一馬、お隣さんからな、ししとうもらったんよ。今日、炒め煮作ろか。
それとも天ぷらとか、他に食べたいもんある?」
キャッキャッとはしゃいでいて、安藤さんらしい。
ふっと小さく笑って、本格的に眠りにつこうと、ごろん。
寝返りをうった。
なのに、
「え」
……えってなんだよ。
安藤さんのわかりやすい落胆した声がした。
「あ、うん。そっかぁ……。
一馬、忙しいもんね」
寝ていられるはずもなく、ゆっくり身を起こす。
「うん、うん……。大丈夫!」
体壊さんようにね。
そうつけ加えて、おそらく電話を切ったんだろう。
話の内容からして、彼氏と会えなくなったらしい。
俺のところにまで届いたのは、重い重いため息。
プライバシーの侵害。
そうわかっていながらも耳をすます。
「さみしい、なぁ」
胸が、詰まるみたいだ。
小さな喧嘩は聞こえてきたこともある。
泣き声だって、なんだって。
だけど、俺は知らない。
こんな、潰れてしまいそうな声は。