お隣さん。
「麻央のこと、1番に想えなくなった。
他に大切な人が出来たんだ」
「なに言うて……いや。いや、や。
うち別れた、な、」
息が詰まり始める安藤さんと重く低い声の彼氏。
「もっと早くに言うべきだったのに、こんなに遅くになってごめん」
「待って、そんな、話畳もうとせんで!」
「っ、」
「いつから。
いつからうちのこと好きやなかったん」
「……ごめん」
ああ、本当に最低だ。
どうしてそんな「ごめん」だけで済まそうと、済ますことができると思えるんだ。
途切れた会話。
響く泣き声。
あの男はいつも逃げて、逃げて逃げて。
それで彼女を傷つけて────終わるんだ。
しばらくして立ち去る男の足音の後、小さく聞こえたのは、
「行かんで、一馬」
小さな、叶わない願いごと。
俺も彼女も、痛いほどに濡れていて。
ぽたり。
俺の頬に伝った雫に目を見開いた。