お隣さん。








ちょうど去年の今頃、安藤さんと出会って初めての秋。



「わ、すごい!
林檎がツヤツヤしてるんですね!」

いつものように送られてきた林檎をおすそ分けして。



「ありがとうございます」

うわぁいと声をあげて喜んでくれて。



「甘いものお好きなんですよね。
アップルパイです」

わざわざ焼きたてを持って来てくれて。



「美味しかったです!」

そう言えば、



「よかったぁ」

優しく、ふにゃりと笑ってくれた。








────ああ、そうだよ。

忘れられないんだ。



甘酸っぱい、爽やかな林檎の柔らかな食感。

しっとりと広がる生地の甘み。






なによりも、幸福に浸されたあの瞬間。






「美味しい」に返ってくる笑顔が、もうきっとはじめの頃から────好きだったんだ。





恋じゃなくて。

愛でもなくて。

名前のない好きがずっとここにあった。






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