お隣さん。
*
ちょうど去年の今頃、安藤さんと出会って初めての秋。
「わ、すごい!
林檎がツヤツヤしてるんですね!」
いつものように送られてきた林檎をおすそ分けして。
「ありがとうございます」
うわぁいと声をあげて喜んでくれて。
「甘いものお好きなんですよね。
アップルパイです」
わざわざ焼きたてを持って来てくれて。
「美味しかったです!」
そう言えば、
「よかったぁ」
優しく、ふにゃりと笑ってくれた。
────ああ、そうだよ。
忘れられないんだ。
甘酸っぱい、爽やかな林檎の柔らかな食感。
しっとりと広がる生地の甘み。
なによりも、幸福に浸されたあの瞬間。
「美味しい」に返ってくる笑顔が、もうきっとはじめの頃から────好きだったんだ。
恋じゃなくて。
愛でもなくて。
名前のない好きがずっとここにあった。