お隣さん。
*
そっと自分の頬をなぞり、涙をすくう。
たった一粒のそれは、拭ってしまえばそれで済む。
俺は、泣いている場合じゃない。
聞こえる泣き声はきっと今日、止むことはない。
そして、明日もその先も。
だから俺は。
明日じゃなくて、明後日から。
いつも通り、おすそ分けをして。
気負われないような会話をして。
……たまに、笑いかけてみよう。
終わりから始まるものもあると、証明してみせる。
これから、始めるんだ。
理由もきっかけも意味もない。
ただの貴女との日常が愛おしいと思うから。
「──安藤さん」
格安マンションの3階の片隅で。
俺はお隣さんに恋をしている。
fin.