お隣さん。
これといった問題もなく、近くの部屋に挨拶を済ますことが出来た。
ご近所さんとの関係は始めが大事だからな、よかった。
しかし、引越し蕎麦って古いよなぁ……。
今時、生ものを渡す人はそんなにいないんじゃないだろうが。
無理やり押しつけてきた母を思い出し、ため息をひとつ。
もう渡してしまったからどうしようもないか。
さっさと気持ちを切り替える。
わずかに強張っていた頬を緩ませて、部屋に戻ると……、
「今日のーお昼はおっそっばー」
楽しげな歌声が聞こえてきた。
「……」
なんだ今の。
どこから。
なんで。
困惑から、眉間にしわが刻まれる。
声からして、安藤さん……だよな。
え、なにをしているんだ。
というか。
「壁、薄すぎるだろ……」
安藤さんの部屋の方を見やった後、頭を抱えて。
そして、格安マンションの理由がわかり、俺はひとり絶望した。