お隣さん。
その時、外から人の話し声と足音。
そして隣の部屋の扉の開いた振動が伝わってきた。
どうやらひとりじゃないらしいな。
そうは思っても、気にしないで態勢を変えずにいたけど、
「あ、ちょっと待っ……ん、」
聞こえてきた甘い声に、俺は顔の上に雑誌を落とした。
「ひゃ、ぅ、……だめ……っ」
なんだこれなんだこれなんだこれ。
今までに聞いたことのない、その声はつまりそういうことで。
あっちは俺に聞こえているなんて思っていないし、声を小さくもしない。
……これ、止まらないんじゃないか?
頬に熱が一気に集中する。
出会って間もないとはいえ、知り合いのこんな声は聞きたくなかった。
「あー、くそっ」
身を起こし、急いで立ち上がり財布を手にする。
そのまま音を立てないようにして家から抜け出した。
エレベーターに乗りながらはぁ、とため息を吐いた。
一気に疲れを感じる。
こんな昼間から本当にやめて欲しい。
「……安藤さんって彼氏いたんだ」
小さな俺の囁きはそっと空気に溶けるように消えた。