お隣さん。
「麻央、おまたせー」
「ちょっとー、ほんまに遅いよー?」
ようやく玄関から出て来たのは色素の薄い天パの男。
いやーごめんごめん、って緩いな。
「よっし、行こうぜ」
「はいはい。
あ、本田さん。
たまにはいいですけど、あんまりコンビニのお弁当ばかり食べちゃだめですよー」
それじゃあ、とぺこり。
俺も頭を下げた。
「さすが栄養士さんは言うことが違うなー」
「もう、そんなん言うてんと行くよ」
「あ、そういえば今日の晩飯なに?」
「オムライスを作りまーす。
グリンピースもちゃんと入れたげるからね」
「うぇー、おれグリンピース嫌い」
「うちの妹らみたいなこと言わんの」
……頭の弱そうな男。
あんまり言うのも問題だけど、彼女はそんなに趣味がいいわけではなさそう。
安藤さんは妹がいる。
安藤さんは訛りがある。
安藤さんは栄養士。
安藤さんは……彼氏持ち。
一気に増えた情報に混乱する思考を断ち切るように、俺は珍しく大きな音を立てて扉を閉めた。