私の中で男になって
「ぇ…だって一人で昼食べるとか嫌じゃない?」


翔君はおもむろに眉間にしわを寄せる

乗り物待ちをしているとき、翔君と昼食の話題になった

「まぁ大勢の中でポツンは気まずいけど、実際一人って楽だよ」

程よいざわつきが私たちの会話を進ませる

私たちは人ごみの中にいるけど二人きり

誰も私たちの話を聞いてはいない

「だって一人で食べるより誰かと一緒のほうがよくね?俺誰かしら呼び寄せるんだけど」


翔君は対象のわからない笑みをちょっと浮かべる


「あーあー、まずない」

何度も同じようなことを話してきたけどまた言う




そしてこれも何度も同じようなことを話してきたけどまた言う

「俺は誰かといたほうがいいんだけど」

「なんで?」



「なんで・・・かねぇ」




誰かといることを意味もなく求めるなんて理解できなかった




だからサークルも続かなかったんだと思う

友達もいたけど私をつなぎとめるほどのものではなかった


無駄なことに耐えられなかった

何か生産性がなければ不安だった

何か生産してないと

誰かにどんどんぬかされるんじゃないかって

ただ一緒にいることなんて耐えられなかった




私は私自身の呪縛にがんじがらめにされていた



だから私はわからない






どうして翔君といる時間だけは

この呪縛から逃れているのかを





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