私の中で男になって
いつの間にか店を出ていて特に当てもなくフロアを歩いていた


「ためしに、ためしに一回指輪つけてみようよ」

翔君はちょっと嫌なのか渋りながら手を差し出した

私はその時つけていた指輪をはずして翔君の指につけ
てみる



「あははははっははっっ」

予想はしてたけど翔君の指に指輪は本当に似合わなか
った

明らかに指輪が変に目立ってしまっていてちぐはぐだ
った



大笑いされた翔君はわざと舌打ちをして、私を置いて
先に行ってしまう

そんな翔君を追いかけてつかまえて

“ごめんねごめんね”といいながら頭をなでる

その頭をなでるのも翔君はあんまり好きじゃないだろ
うけど

私たちのやり取りはいつもそんな感じだ

私が翔君のことをからかっては翔君がふてくされて

私がごめんねって言えばそれでおしまい





かっこいいからじゃなくて

でもただかわいいだけじゃない



憧れや片思いが実ったわけじゃないけど

今の私たちの関係に足りないものなんてなかった



好き以上に愛くるしい

翔君も私もそんなことめったに言わないけど

言わなくても伝わってくる



なんの根拠も要らなかった

翔君が私を好いてくれてる証拠なんていらない





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