私の中で男になって
そんなことを思いながらも言い出せないまま私たちは電車に乗った

改札を通るとき、電車を待つとき、帰り道をたどるのが悲しかった


電車内は少し酔っぱらったサラリーマンや、疲れて居眠りをするおじさんたちが大勢入っ
てきた

始発に近かった私たちは座れてたけど、ごみごみした電車内は日常を思い出させる

せっかく翔君と二人きりで誕生日を過ごしているのに…


「今日はありがとね。ずっと一緒にいてくれて。」

わたしはそういいながら翔君の手を握りなおす



「ううん。おれも楽しかったし。」

「私も、楽しかった!プレゼントもありがとう。」

会話が過去形なのがやけに耳に障る

「じゃあさ、このままホテルでも行く?」

翔君はまたいつもの冗談っぽい口調で言う

「翔君よくそれ言うけどさ、どこにあるとか知ってんの?」



「…知らない。」

ばつが悪そうに顔をそむける

たぶん本当に知らないんであろう翔君の頭をなでる

いままで誘うに誘えなかったのも場所を知らなかったからかもしれない


< 63 / 64 >

この作品をシェア

pagetop