路地
「何をしている。」


低い声が響く。


美織は無視してひたすらにそれを倒そうとする。


「止めろ。止めるんだ。」


抑揚のない、けれどもどこか威厳のある声がすぐ近くに再び響いた。


「止めろと言ってるだろ。倒してどうする。倒したところでお前が探しているものは無いんだ。」


「嘘よ。適当な事を言わないで。私は分かってるの。ここにある事を知っているの。」


美織はもう倒すのを止め、ひたすらに鉄屑を素手で掻き出していた。


手の先から血が滲んでいるのを確認するも、その行為を止めなかった。


「やめるんだっ。」


美織はその声に思わず体をビクつかせてしまう。


「やめるんだ……」


覇気のない諦めのような言葉を背後から聞こえてくる。


ーーー知ってる


やはり私は知っているのだと美織は確信した。


顔を見せないその男の正体を。









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