夜空に咲く花火の下で
「真琴、手伝ってあげたいけど今日は子供と約束してるから」
ごめんね、とすまなそうに言う高木さん。
高木さんは既婚者で可愛い一人息子の和哉くんがいる。
今日は家族で花火大会に行くという話を前々から聞いていた。
「いえ、大丈夫ですよ。和哉くん、花火楽しみにしてるんですよね。だから早く帰ってあげてください」
「ありがとう。じゃあ、お先にね」
高木さんはフロアを後にした。
その後ろ姿を見送っていると、どこからか視線を感じた。
「あの~、私は用事があって……」
一年後輩の馬場さんが私をチラチラ見る。
さっきの視線は彼女だったのか。
「大丈夫、最初から馬場さんに伝ってもらおうとか考えてないから」
「ホントですか?よかったぁ。今日は一度家に帰って浴衣を着てのデートだから定時には帰りたかったんです」
私の嫌味もさらっとスルーし、鼻歌交じりで片付けを始めた。
チッ、このリア充め!
私だって定時で帰りたかったよ。