アンダー・ザ・パールムーン



クシュン、とわたしはくしゃみをした。


「キョウコ、さみぃか?」


先輩が少し上体を起こし、左手で、薄い羽布団を引っ張りあげる。


先輩の右腕は、わたしを腕枕しているせいで身動きが出来ない。



腕枕って…あんまりいいものじゃない。


ゴツゴツしてて、不安定だし、
先輩が痺れてないか気になるし。


でも、それが愛情表現なんだと言わんばかりに、先輩の右腕はわたしの頭の下敷きになり続けている。



「うん…ちょっと寒いかな…」


わたしは横を向いて、先輩の脇の下に顔を埋めた。


黒い茂みが鼻をくすぐる。

その草むらの中に、涙の粒がポロポロと落ちて行く。


喉の奥から込み上げてくる嗚咽を、歯を食いしばって我慢した。




山の中にある古いラブホテル。


普通は、車で入るんだろうけど、
わたしたちは手を繋いで、ガードレールぞいの山道をずっと登ってきた。


ツタに覆われたホテルの外観は、かなり不気味で。


でも、入るしかなかった。


先輩は、明日の昼過ぎに発つ東京行きの切符を既に買ってしまってる。





< 4 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop