アンダー・ザ・パールムーン
クシュン、とわたしはくしゃみをした。
「キョウコ、さみぃか?」
先輩が少し上体を起こし、左手で、薄い羽布団を引っ張りあげる。
先輩の右腕は、わたしを腕枕しているせいで身動きが出来ない。
腕枕って…あんまりいいものじゃない。
ゴツゴツしてて、不安定だし、
先輩が痺れてないか気になるし。
でも、それが愛情表現なんだと言わんばかりに、先輩の右腕はわたしの頭の下敷きになり続けている。
「うん…ちょっと寒いかな…」
わたしは横を向いて、先輩の脇の下に顔を埋めた。
黒い茂みが鼻をくすぐる。
その草むらの中に、涙の粒がポロポロと落ちて行く。
喉の奥から込み上げてくる嗚咽を、歯を食いしばって我慢した。
山の中にある古いラブホテル。
普通は、車で入るんだろうけど、
わたしたちは手を繋いで、ガードレールぞいの山道をずっと登ってきた。
ツタに覆われたホテルの外観は、かなり不気味で。
でも、入るしかなかった。
先輩は、明日の昼過ぎに発つ東京行きの切符を既に買ってしまってる。