涙があふれるその前に、君と空をゆびさして。
〈0〉ープロローグー



幼い頃、夜中にそっと家を抜け出して遊びに行った丘で、君が言った言葉が今でも忘れられない。


いつものように空をゆびさしながら。



「俺、死んだらお月さまになりたいっちゃん」



そう、言ったね。


自分の背の高さまである雑草がそこらじゅうに生えてあることはザラな田舎町の端っこ。


迷路のように細く、入り組んだ道を行くとある丘のうえ。
緑一面のその場所に彩りを添えるように紛れた白詰草。


蛍が尻尾を光らせて飛び、演出する雰囲気に小学生の私たちはまだ気づけていない。


真っ暗な空に光る幾千の星の数を数えようとして途方にくれたこの前の出来事をなんとなく思い出していたのに、いきなりなに。


……お月さま?



「お月さまはダメだよ!」


「なんで?」



君がいつか死ぬだなんて……考えたくもない。



「夜はサク寝とるし、朝になったら起きるけどお月様は隠れるやろ?サクのこと見られんよっ?」


「なんでサクのこと見らないかんと?」



キョトンとした君に乙女心はまだ難しいらしい。
それを不服に思いながらも、いつものことだから我慢我慢。



「と、とにかく!お月さまはいかんっ」


「え〜……」


「許さんけんね」



頬を膨らませるサクに、レイはおかしそうに笑った。



「あのお月さまに一番近い星をサクにあげてもダメ?」



そう言ってレイはまた空をゆびさした。


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