涙があふれるその前に、君と空をゆびさして。
〈10〉時が止まる瞬間
「くっ……くるしいっちゃけど……!」
「よー似合っとうばい」
蝉の鳴き声がうるさい午後4時半。
夏休みに入って2回目の土曜日。
花火大会に行くと言ったら美紀さんが浴衣を出してくれた。
白い生地に、色鮮やかなヒマワリがかわいい。
私にはもったいないような浴衣で。
……朱色の帯が苦しくて、落ち着かん。
「これでばっちりやね!」
美紀さんに髪の毛を結ってもらって。
鏡の中にいる私はなんだかいつもと違って大人っぽく見える。
髪どめも浴衣と合わせてヒマワリですごく……かわいい。
「ありがとう美紀さん」
「いいって。かわいいよ。自慢の娘やん」
美紀さんが鏡ごしに笑った。
……娘?
「咲夜ちゃんは、私の娘も同然やって思っとうよ?ほんでこの子は咲夜ちゃんの弟」
お腹を優しい瞳で見つめながらさする美紀さんに、心がくすぐられるようにこそばい。