涙があふれるその前に、君と空をゆびさして。


警察にも言った。


だけどしばらく様子を見ましょうと言うだけで、なにもしてはくれなかった。


それからその人はたびたび家に来ては「酒!」とか「金だせ」とか理不尽な要求をしては帰って行った。


もちろん断れば暴力が飛んだ。


……死にたかった。

死んだほうがマシだと、本気で思った。


毎日がボロボロで。辛く、悲しかった。


ただその中で、たったひとつの希望だったのがレイの存在で。


ひたすらに、レイに会いたかった。

笑顔のレイに会いたくてたまらなくて。


声が聞きたい。「サク」って、名前を呼んでくれるだけでいい。
何度も何度もそう思った。



「ごめんね、サク……」



お母さんはなにも悪くないのに謝ってばかりで、心の底から悔しかった。


引越しも考えたけれど、お母さんのパートだけで生計を立てているうちにそんなお金の余裕も時間もない。


……困り果てていたそんな時に事件は起こったんだ。


中学の卒業式まで残り一ヶ月を切った土砂降りの雨が降る夜。


またあいつは私たちを苦しめにやって来た。


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