涙があふれるその前に、君と空をゆびさして。
「お願いだからもう来んで……っ」
その日もその人はお金を無理やりお母さんから奪って暴力をあげた。
暴れまわって部屋はぐしゃぐしゃ。
家中のお金を全部かき集めて満足したのか、玄関でクツを履くその人に後ろから泣きながら頼んだ。
……もう壊れそうだった。
限界だったんだ。私もお母さんも。
「はあ?ふざけんなよ…!?」
立って振り返ると私の頬を思いきり殴ったその人は冷たい視線を私に向けて……。
「お前らは一生死ぬまで俺から解放されねぇーんだよ!!お前の母さんが死んだら咲夜、今度はお前だからな!!」
ピシャッと、勢い良く閉められた扉。
一瞬で一生ぶんの悪夢を見せられたような気がした。
息ができなくなって、思わず座り込む。
殴られた頬の痛みも感じなくなるほどの衝撃。
私は一生あの人に関わりながら、迷惑をかけられながら生きて行かないといけないの……?
こんな地獄のような日々が死ぬまで続くというの?
心がストンッーと身体から抜け落ちたような気分だった。
「……ころしてやる」
生まれて初めて抱いた殺意はとても静かで醜い感情だった。