涙があふれるその前に、君と空をゆびさして。
〈3〉笑う君に恋する



念願だったレイとの再会を果たしてから一ヶ月が経った朝。


設定していたアラームが鳴るより30分も早く起きてしまった。


だけどどうにも起き上る気力が出なくて、天井を見つめて時間が過ぎるのを待つことにした。


……なんの感情も湧いて来ない。
喜怒哀楽のどの気持ちにもなれなくて、ひたすらに無が心の中に蔓延っていた。


ようやくアラームが鳴るはずだった時間になると、起き上がって、着ていたスウェットから真新しい制服に身を包んだ。



「おぉ、似合っとるやん」


「ほんとやね。私たちちゃんと行くけんね?」



今日は高校の入学式。


部屋にこもって過ぎた入学式までの時間は私に感情を忘れさせた。


新しい憧れていたブレザーの制服を着ても、
美紀さんの美味しいご飯を食べても、


やっぱりなにも感じない。


念願だったレイとの再会が、あまりに想像と違い過ぎていて、未だに現実を受け止め切れていない。


だって私はレイと笑って話しができるって、離れていた時間なんて関係なくって、また昔と同じように仲良しの幼馴染の関係になれると、そう信じていたから。



「……行って来ます」


「おう!気ぃつけて行くとぞ」



朝から暑苦しいぐらい元気いっぱいの叔父さんに買ってもらったローファーを履いて、田んぼだらけのあぜ道を歩いた。


渇いた道を歩くと、砂埃が舞い上がる。



「…………」



……私、なんのために生きてるんだっけ?


心の支えやったレイに冷たくされて。


お母さんが私の人生のために、かつては夫やった人を殺して。


でも私があの人を殺そうだなんて思わんかったら、お母さんやって死なずに済んだのかもしれない。


……全部私のせいなのかもしれん。


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