涙があふれるその前に、君と空をゆびさして。
あいつさえいなければ、私たちは幸せになれるとそう思った。
私とお母さんを苦しめていたのは間違いなくあいつだったから。
……でもダメだ。
とても今の状況が幸せだとは思えない。
「自分のクラスを確かめてから教室に行ってくださーい!!」
新しく私が通うことになっている高校の昇降口前、係りの先輩たちが大声で叫んでいる。
桜が風に揺られ、花びらが舞い、入学式のお祝いムードを演出している。
浮かれている入学生たちの明るい声。
その中で冷めた私だけがひとりで誰とも話さずにいる。
自分のクラス……2組か。
全部で3組しかないのか。
少ないっちゃない?そうでもないとかいな。
……どうでもいいか。
「あ」
すぐ近くで聞こえたその短い声に下げていた目線を上げると驚いたような顔で私を見る男の子。
あ、確かこの前丘で会った……。
名前は確か……えっと……。
「けい……と?」
そうだ。圭都だ。
この前丘で突然木の上から落ちて来た変なやつ。
「毛糸違うぞ!?圭都やけんな!?」
彼の無駄に明るい声に、眉間にシワを寄せる。
……そげん大きな声出さんでもいいやんか。
そんなんわかっとうしさ。