涙があふれるその前に、君と空をゆびさして。


その私の視線に気づいたおばさん達はサッと逃げるように自分たちの家に入って行った。


……やっぱり人間って他人のイヤな噂が大好きなんやね。


学校もご近所さんも。

どこも一緒なんや。


諦めのため息を吐いてから家に入った。


すごく散らかっている狭いアパートの2階。


散らかっているって言うよりも、荒らされたような……と言った方がいいような感じだけど。



「……っ……」



ついこの間起こったあの夜の出来事を思い出して息苦しくなって胸を抑える。


……こんな部屋、さっさと出て行ってしまおう。


制服を脱ぎ捨てるようにして、まとめていた荷物だけを持ってすぐに家を出た。


もうこの家には戻らない。


……心臓の悪い幼なじみに親の再婚が理由で引っ越すという事実を告げられないまま、その幼なじみの手術が成功したのかもわからないままこの町にやって来て8年。


そして今日、この春に中学校を卒業した私はまたこの町を出て行く。


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