君の手を掴みとる
それでも僕は
 走馬灯のように駆け巡る。
 彼女と初めて会ったときのことだ。
 あのときの俺は、全てが嫌になっていた。
 絶望だった。
 不安だった。
 悲しかった。
 苦しかった。
 寂しかった。
 嫌だった。
 憎かった。
 恨めしかった。
 ありとあらゆる負の感情が俺を襲っていた。
 世界は俺の敵で、味方は誰一人いなくて、俺だけだった。

「ーーねえ」

 それは光だった。
 闇のなかに一筋の光。
 小さな、今にも消えてしまいそうな、でも、力強さを感じて。
 なによりも。
 暖かかった。

 僕は上を向いた。
 どれほど下だけを向いていたのか分からない。
 首が痛い。
 軋む。
 けど、声の主を確認せずにはいられなかった。
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