焔のものがたり
少女は森の中の小さな切り株に寄りかかり座り込んでいました。「家族」なんてろくなものじゃないな。彼女の呟きは、音にならずに吹雪にかき消されました。どれだけ憎くても、どれだけ殺したくても、いざ死んでしまったときのことを思えば、寒い日に私の布団をかけなおしてくれたこと、朝起きたときにおはようのキスをくれたこと、クリスマスの朝、枕元にプレゼントが置かれていたこと、優しかった頃の記憶ばかりが溢れ出てくるんだもの。ローエンの頬を伝う滴が氷の線を引いていきます。家までたどり着く体力はもう残っていませんでした。少しでも温まろうと、ローエンはマッチの先端に火を灯しました。揺らめく光はほんのりと金色に輝いていました。あたたかなその色の向こうにはちろちろと燃える暖炉が、ふっくらとしたクリスマスチキンが、色とりどりのプレゼントが見えたような気がしました。思わず手を伸ばすと、小さな灯は風にあおられ、吹雪に溶けるように消えてしまいました。