追伸,私は生きています。
「ああ、お嬢ちゃん。
灯ノ守様の森にゃ行っちゃあいけねぇよ。若者や他所者は話を聞けばすぐ行こうなんぞ騒ぐ。」

「……ひのもりさまの森?」

「ああ。あそこは神隠しで有名じゃ。
他所もんが近づくとどうなたるかわかったもんじゃねえ。
それに、あそこは蜂も多い。」

「…覚えておきます。ご親切にどうも。」

私はまたひとつ礼を言って、足早にこの場を去った。
お爺さんはニコニコ笑って、
私に手を振ってくれていた。





お爺さんが何処かへまた行ってしまい、
ぐるりと回って辺りを見回しても
誰一人、私以外の人がいないことに気づく。
木々も増え、コンクリートの地面はヒビだらけで、
少しずつ道路は土色になっていく。

まだ六月だというのに落ちて干からびた蝉の死骸をよけて、
奥へ。奥へ。







遠い向こうから、とん、とんと音が聞こえた気がした。
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