追伸,私は生きています。
「ほ、ほ、ほーたるこい……
こっちーのみーずはあーまいぞー♪
そっちーのみーずはにーがいぞー♪
ほ、ほ、ほーたーるこいっ♪
ほ、ほ、やーまみーちこいっ♪」


知らない道を、恐れず進む。
耳が痛いほどに響く蝉の声。
さらさらとどこからか聞こえる小川の流れを表す水音。
見事に田舎の夏、と言う感じがする。

上を見れば、青々とした木々が屋根のように太陽を遮り、
下を見れば木々が隠しきれなかった太陽光の粒が優しく転がっている。
バラバラだったみんみん蝉の声が、
合唱のように一気に重なってはまたほぐれる。
木陰の涼しさは進めば進むほどに増し、
うるさいほどの極彩色を見せつけるキノコも増してゆく。


落ちていた綺麗な形の木の枝を屈んでつかみ取り、こん、こんとほかの木の幹に打ち付けて進む。

蝉の声。川の音。木々の葉音と、手元から鳴り響くからころと響く打音まで、
全てがひとつになり、混じりあってゆく。
今までにないような開放感。
美味しい澄んだ空気。
包み込むように優しい木々の翠の色。
うっとりと眼をとじ、
瞼の裏にも届く翠を感じて。

ゆっくりとその場に寝転んだ。
木の根が枕になって丁度いい。
優しい香りの花がそばにあるのだろう。
甘い香りが……遠くに行ってしまった、
母の姿を思い出させたのだった。

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