追伸,私は生きています。
しかし現実は非情で無情。
この小さな体を蝕むかのように、
生ぬるい水をかぶせてくる。

生臭い香りが立ち込め、土は水を含んで泥になる。
木の下にいるからまだしも、
多分最近よくあるゲリラ豪雨なのだろう。
横殴りの雨は木の葉を押し倒し私に向かってくる。
私の弱い体はどんどん体温を削り取られ、息が荒くなっていった。

頭痛がひどく、
よろけながら道なき森を進み、進む。
バシャバシャとそこら中から溢れ出る轟音。
いつの間にか静まり返った蝉の声。
自分だけ取り残された恐怖が襲う。

怖くて、恐ろしくて、寂しくて悲しい。


こんな事ならば家に居ればよかった。
遊び半分でこんなところに、来るんじゃなかった。

今更そんなことを思っても、どうせもう遅いのだろうけれど。


歩幅がどんどん小さくなっていく、
そんな時だった。


雨で良く見えないが、少し先になにか人工物のようなものが見える。
出られたか?となけなしの体力を振り絞って駆け寄る。





─────が。






《灯ノ守様の森》



ぴたり、と動きが止まる。
この名前を、私は知っている。
だって、ほんのついさっき、聞いたんだ。










──ああ、お嬢ちゃん。
灯ノ守様の森にゃ行っちゃあいけねぇよ。
若者や他所者は話を聞けばすぐ行こうなん ぞ騒ぐ。




──……ひのもりさまの森?




───ああ。
あそこは神隠しで有名じゃ。
他所もんが近づくとどうなたるかわかったもんじゃねえ。
それに、あそこは蜂も多い。







ああ、なんてことだ。
私が入ったのは、危険な森だったのだ。


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