晴れ、時々、運命のいたずら
「それにしても、香川から出て来たばかりの田舎者をいきなり渋谷を歩かせるなんて、直美さんも結構酷いよね。」
明治通りを歩きながら千夏がぶつぶつ文句を言っている。
「まぁまぁ、社長も忙しいんじゃない?」
有紗がなだめながら隣で微笑む。
「あっ、この道を入るのね。」
地図を見ながら脇道を入ると、茶色い壁の雑居ビルが見えてきた。
入り口にある大きな入居一覧表を順番に確かめる。
「あった。」
402号室。
ゴールドプロモーションの文字。
エレベーターに乗り4階へ。
402号室のガラス扉の前に立つと、2人で目を合わせた。
「いよいよだね。」
千夏が少し真剣な表情を浮かべる。
「母さん、緊張しすぎ。」
「あんたは、東京来ても全く動じないのね。」
「これのお陰だよ。」
有紗はポケットから黄色いお守りを取り出し、千夏に見せた。
「なるほど、ね。」
千夏がゆっくりと扉を開けた。
入ってすぐ前にカウンターがあり、その上に電話が置かれてある。
『御用の方は内線115でお呼び出し下さい』
「おはようございます、徳島ですが…。」
千夏が受話器で名前を告げる。
(いよいよ、始まるんだ…。)
有紗は右手でお守りを握り締めながら、静かに目を閉じた。