晴れ、時々、運命のいたずら
「ねぇ、香織。」
「何?」
「実はね、私には地元の香川に大切な人がいるの。私はその人の隣にいて相応しい女性になる為に上京してアイドルになろうと思ったの。」
「…。」
「それから香織と2人でずっと頑張って来たけど、今になってその人が病気で入院している事が分かったの。
退院したのだけど…、先日高崎で行ったソロイベントにも姿を現さなくて…。
必ず行くって言ってくれたのに…。
何か嫌な予感がするの。
私がアイドルになりたかったのは、その人の為。
だからその人がもしも…。」
俯いたまま頭の中を整理する。
「分かってるの。
そんな事、私の我が儘だって事。
宮城さんにも社長にも、少し休ませて欲しい、ってお願したの。
一度、香川に帰らせて欲しいって。
けれど、私はソロとしてこれから大切な時期だから、と言って許してもらえなかった。
でも、帰りたい。
帰って、あの人の顔が見たい。
迷惑かけているのは分かっている。
アイドルを止めるつもりはない。
ただ、一目、顔が見たいだけ…。」
香織は真っ直ぐに愛姫を見つめたまま何も話さない。
(香織…。)
暫くの沈黙の後、愛姫はゆっくりと顔を上げた。
香織と目が合う。
香織はテーブルの上にお札を1枚置くと、帽子を被り、サングラスをかけて立ち上がった。
見下ろしてくる香織と再び目が合う。
そして香織は一言、冷たく言い放った。