晴れ、時々、運命のいたずら



六本木ヒルズの脇にある公園で撮影が始まる。



「愛姫さん、もう少しにこやかにお願いします。右手を上にあげて。そう。」



ポーズをとる愛姫を様々な角度からカメラマンが撮影していく。



「もう少し笑顔が欲しいな。」



どうしても、顔に焦りが出てしまう。



(私…、行かなければならないの。)



「一回、休憩しましょう。」



典子が声を掛け、撮影を中断させると、すぐに愛姫の右腕を組んで記者たちと少し離れた場所へ連れて行った。



「ちょっと、愛姫ちゃん。何やっているの。しっかり笑顔で撮影して貰わなきゃ駄目でしょ。」



典子は明らかに不満そうだ。



「それは分かっていますが、私、もう時間が…。」



「時間ってこれは仕事なの。分かってるでしょ?」



「しかし、私、1時間ほどで終わると聞いていたから…。」



「そんなの、当日になって時間が変わる事なんて当たり前でしょ。何年この世界に居るのよ。」



「本当に、もう私行かなければならないんです。」



焦る顔で必死に訴える。



「そろそろ、次の撮影しましょうか?」



遠くから記者が声を掛けてくる。



「いい?とにかく、しっかりやって頂戴。でないといつまで経っても終わらないわよ。」



時間がかかっているのは愛姫が悪いような言い方をする。



「…分かりました。」



愛姫は渋々頭を下げると、再び撮影へと向かって行った。


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