晴れ、時々、運命のいたずら
1週間後。
渋谷のマンションに愛姫を残して千夏が香川県に帰る日がやってきた。
品川駅から新幹線に乗る千夏の背中を見つめながら、ゆっくりと頭を下げた。
閉じた扉の向こう側から千夏が手を振っている。
愛姫も負けじと、見えなくなるまで手を振り続けた。
(1年間ありがとう…。私は絶対諦めないから…。)
新幹線が完全に見えなくなり、その場を離れようとした時、鞄に入れていた携帯の着信音が聞こえて来た。
画面に島根の名前が表示されてある。
「はい、愛姫です。」
「愛姫さん、お母さんのお見送りの所、申し訳ございません。」
「いえ。」
「実は今日急遽、雑誌の取材が入りまして、渋谷の事務所で14時からです。13時に迎えに行きますので。」
「大丈夫ですよ。今、品川なので直接行きます。」
「そうですか。あと、メジャーデビュー最初のイベントが名古屋で決定しましたので、宜しくお願いします。」
「分かりました。ありがとうございます。」
愛姫は電話を切ると傍に会った新幹線の路線図に目を向けた。
(名古屋…。)
デビュー後最初のイベント。
(母さん…、私、頑張るからね。)
右手を強く握りしめながら、早足で山手線のホームへと向かった。