学園マーメイド


「あ、あの」


荒れた息のまま叫ぶと、声が反響してより大きくなってしまった。
男はゆっくりとベンチから腰をあげると手を叩いて歩いてきた。


「いやあ、凄いね。スピードも速いし、形も綺麗」
「ごめん。気づかないで」
「全然いいよ。こっちも見てて楽しかったし、ほんと人魚みたい」


半漁人の間違いだろう。
人魚みたいに華麗に泳ぐ競技ではないよ。
否定をしたい気持ちは山々だったけど、この人なら更に上を行く言葉で返してくるだろうと思ったためやめておいた。

キャップとゴーグルを外して、男に水がかからないように頭を振った。
水滴があちこちにとんで音を立てる。


「あの、名前聞いてなかったから」
「ああそうだ、俺の名前」


男はそう言ってしゃがんでプールの水をすくった。


「陸嵩、穂波陸嵩(ほなみりくたか)」


ホナミリクタカ、心で何回か唱えて忘れないようにしないと。
私は小さく微笑んでよろしくと言った。
彼も同じことを言い返した後、立ち上がり飛び込み台の上に腰を下ろした。


「どやったらそんな風に泳げんの?」
「…さあ。小さい頃からやってたからかな」
「俺、水は全然だめ。プール入ると足つるんだよね」
「じゃあお風呂は?」
「え、風呂は入れるよ」


じゃあプールだって同じ事なのに、と思う。


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