学園マーメイド

プールでも海でも湖でも風呂でも、そこに水があるなら体を任せて水中を蹴るだけ。
遠く遠く、どこまでも深い所まで逃げて逃げて、海と同化する。
そんな事ができたら幸せだろう。
いっそ魚として生まれてこれたら良かったのに。

ぼうっと一点を見つめていた瞳に肌色のものが映り、はっと我に返る。


「マーメイド?」


その肌色の物体は彼の手であって、私の瞳の前でひらひらと振っている。


「あ、ああ。ごめん」
「泳ぎ疲れたんじゃない?俺もう帰るし、あがりなよ」


疲れるなんて事はない。
むしろ一生水の中にいてふやけてしまってもかまわないぐらい。
だけどそんな事言っても理解してくれる人なんていないから、私は話をあわせたように頷いた。


「そうするよ」
「ん。今日はありがとね、またね」

飛び込み台から腰を浮かせるのに連なって髪の毛がふわりと揺れた。
まるで光が飼っているゴールデンレトリバーみたいだ。
そんな事を思いながら、手を振って出て行く彼の背中を見送る。


そして、頭の中に疑問が残る。
“またね”って事はまたここに来ると言う意味として取れるような気がする。
まさか、とは思ったが考えたら不安になってゆっくりと体を水中に沈めていった。


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